茶道具の棗とは?種類と選び方、初心者向け
茶道を始めたばかりの方や、これから抹茶を楽しみたいと考えている方にとって、茶道具は奥深く、どれを選べば良いか迷ってしまうことも多いのではないでしょうか。特に「棗(なつめ)」という言葉を耳にしたものの、それがどのような道具で、どう選べば良いのか分からないという方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、茶道具の棗について、その役割や種類、選び方から使い方、手入れ方法まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。あなたにぴったりの棗を見つけて、より豊かなお茶の時間を楽しむための参考にしてください。
棗とは抹茶を入れる容器
棗は、茶道において**薄茶(うすちゃ)**を入れるための容器です。その名の通り、植物のナツメの実に形が似ていることから名付けられました。茶席では、亭主がこの棗から抹茶を茶碗に入れ、お茶を点てます。
棗の役割と歴史
棗の主な役割は、抹茶を湿気から守り、美しく見せることです。漆塗りのものが多く、蓋がぴったりと閉まる構造になっているため、抹茶の風味を保つことができます。また、その美しい装飾は、茶席に彩りを添える重要な美術品としての側面も持ち合わせています。
棗の歴史は古く、室町時代に中国から伝わった**唐物(からもの)**の茶入が原型とされています。その後、日本で独自の発展を遂げ、様々な形や意匠の棗が作られるようになりました。特に安土桃山時代から江戸時代にかけて、茶道の隆盛とともに多くの名品が生まれ、現在に至るまで多くの人々に愛されています。
棗と茶入の違い
茶道具には、抹茶を入れる容器として棗の他に**茶入(ちゃいれ)**があります。両者には明確な違いがあります。
- 棗 薄茶を入れるための容器です。漆塗りのものが多く、蓋は本体に被せるように作られています。比較的カジュアルな茶会や、自宅で気軽に抹茶を楽しむ際に用いられることが多いです。
- 茶入 濃茶(こいちゃ)を入れるための容器です。陶磁器製が主流で、蓋は象牙などで作られ、仕覆(しふく)と呼ばれる袋に入れて使われます。格式高い茶会で用いられることが多く、より重厚な印象を与えます。
このように、棗と茶入はそれぞれ異なる種類の抹茶を入れ、異なる場面で使われるという違いがあります。
棗の種類と特徴
棗には、その形状や素材、加飾(かしょう)によって様々な種類があります。それぞれの特徴を知ることで、より深く棗の世界を楽しむことができます。
形状による分類 大棗、中棗、小棗、平棗
棗は、その大きさや形によっていくつかの種類に分けられます。
- 大棗(おおなつめ) 最も一般的な棗よりも一回り大きく、存在感があります。
- 中棗(ちゅうなつめ) 最も標準的な大きさの棗で、初心者の方にも扱いやすいでしょう。
- 小棗(こなつめ) 中棗よりも小さく、可愛らしい印象を与えます。
- 平棗(ひらなつめ) 高さがあまりなく、平たい形をしています。安定感があり、モダンな雰囲気にも合います。
この他にも、寸胴(ずんどう)や尻張(しりはり)など、様々な形状の棗が存在します。
素材による分類 木製、漆器、プラスチック
棗の素材も多岐にわたります。
- 木製 木の温かみが感じられる素材です。特に桑や欅(けやき)などが用いられます。
- 漆器 木製の素地に漆を塗って仕上げたもので、最も伝統的で一般的な棗の素材です。美しい光沢と耐久性が特徴です。
- プラスチック 近年では、手軽に扱えるプラスチック製の棗も増えています。比較的安価で、日常使いに適しています。
加飾による分類 蒔絵、螺鈿、沈金
棗の表面には、様々な装飾が施されています。これを加飾と呼びます。
- 蒔絵(まきえ) 漆で文様を描き、金や銀などの金属粉を蒔きつけて固める技法です。日本の伝統工芸の代表的なもので、非常に繊細で美しい表現が可能です。
- 螺鈿(らでん) 貝殻の内側の真珠層を薄く剥がし、文様の形に切って漆器の表面に貼り付ける技法です。光の当たり方によって様々な輝きを見せます。
- 沈金(ちんきん) 漆器の表面に刃物で文様を彫り、そこに金箔や金粉を埋め込む技法です。彫りの深さによって陰影が生まれ、立体感のある表現が特徴です。
これらの加飾によって、棗は単なる道具としてだけでなく、芸術品としての価値も高まります。
初心者向け棗の選び方
初めて棗を選ぶ際には、いくつかのポイントを押さえておくと良いでしょう。
予算と価格帯の目安
棗の価格は、素材や加飾、作家によって大きく異なります。
- 数千円~1万円程度 プラスチック製やシンプルな漆塗りのものが多く、日常使いや初心者の方におすすめです。
- 1万円~5万円程度 伝統的な漆塗りのものや、蒔絵が施されたものなど、選択肢が広がります。
- 5万円以上 有名作家の作品や、精巧な蒔絵が施された美術品としての価値が高いものが多くなります。
まずはご自身の予算に合わせて、無理なく購入できる範囲で選ぶことが大切です。
手入れのしやすさ
棗は抹茶を入れる道具ですので、清潔に保つことが重要です。
- 漆器 比較的デリケートなため、水洗いは避け、乾いた柔らかい布で優しく拭くのが基本です。
- プラスチック製 水洗いできるものが多く、手軽に手入れができます。
日常的に使うことを考えると、ご自身が無理なく手入れできる素材を選ぶと良いでしょう。
デザインと好み
棗は茶席を彩る重要な要素です。ご自身の好みや、お持ちの茶碗などの他の茶道具との相性も考慮して選びましょう。
- シンプルな無地 どんな茶碗にも合わせやすく、飽きがこないデザインです。
- 季節の文様 桜や紅葉など、季節感を取り入れた文様は、茶席に趣を与えます。
- モダンなデザイン 伝統的なものだけでなく、現代的な感覚を取り入れたデザインの棗もあります。
実際に手に取って、ご自身が「美しい」「使いたい」と感じるものを選ぶのが一番です。
棗の基本的な使い方と手入れ
棗を長く大切に使うためには、正しい使い方と手入れの方法を知っておくことが重要です。
抹茶の入れ方と取り出し方
棗に抹茶を入れる際は、**茶杓(ちゃしゃく)**を使ってゆっくりと入れます。抹茶は湿気を嫌うため、使う直前に入れるのが理想的です。入れすぎると蓋が閉まらなくなったり、抹茶がこぼれたりするので、八分目を目安にしましょう。
抹茶を取り出す際も、茶杓を使って丁寧にすくい取ります。棗の縁に茶杓を当てて、抹茶を茶碗に落とすようにすると良いでしょう。
使用後のお手入れ方法
使用後の棗は、抹茶の粉が残らないようにきれいにします。
- 残った抹茶は、**茶筅(ちゃせん)**や柔らかい刷毛で優しく払い落とします。
- 乾いた柔らかい布で、棗の内側と外側を丁寧に拭きます。漆器の場合、水洗いは厳禁です。
- 特に蓋の裏側や縁の部分は抹茶が残りやすいので、念入りに拭き取りましょう。
保管方法と注意点
棗を保管する際は、以下の点に注意してください。
- 直射日光や高温多湿を避ける 漆器は特に、直射日光や急激な温度変化に弱いため、風通しの良い涼しい場所で保管しましょう。
- 乾燥剤の使用 湿気を防ぐために、乾燥剤を一緒に入れるのも効果的です。ただし、乾燥剤が直接棗に触れないように注意してください。
- 専用の箱に入れる 傷や汚れから守るため、購入時の箱や専用の布袋に入れて保管することをおすすめします。
おすすめの棗ブランドと購入場所
初心者の方でも安心して購入できる、おすすめの棗ブランドや購入場所をご紹介します。
有名ブランドの紹介
- 山田平安堂 宮内庁御用達の老舗漆器店で、美しい蒔絵の棗が有名です。伝統的ながらも現代の生活に合うデザインも手掛けています。(参考:https://www.heiando.com/)
- 象彦(ぞうひこ) 京都の老舗漆器店で、京漆器の伝統を受け継ぐ品々を提供しています。洗練されたデザインの棗が多く見られます。(参考:https://www.zohiko.co.jp/)
- 井上茗香園(いのうえめいこうえん) 茶道具全般を扱う専門店で、様々な価格帯の棗を取り扱っています。初心者向けのセットなども充実しています。(参考:https://www.inoue-meikouen.co.jp/)
オンラインストアと実店舗
棗は、以下の場所で購入することができます。
- 茶道具専門店 実際に手に取って見ることができ、店員さんに相談しながら選べるのがメリットです。
- 百貨店 美術品売り場や和食器売り場で取り扱っていることがあります。
- オンラインストア 多くの種類の中から比較検討でき、自宅にいながら購入できる手軽さが魅力です。上記のブランドの公式サイトや、大手ECサイト(Amazon、楽天市場など)でも購入可能です。
まとめ
茶道具の棗は、抹茶を入れるだけでなく、茶席を美しく彩る重要な役割を担っています。形状や素材、加飾によって様々な種類があり、それぞれに異なる魅力があります。
初心者の方が棗を選ぶ際は、予算、手入れのしやすさ、そしてご自身の好みを考慮することが大切です。この記事でご紹介した情報を参考に、あなたにとって最高の棗を見つけて、豊かなお茶の時間を楽しんでください。正しい使い方や手入れをすることで、棗は長くあなたの茶道ライフを支えてくれることでしょう。